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3・兵学教授・大鳥圭介

「先生!居られないのですかー?」

 黒田は襖越しに声をはりあげた。

「おおー、居るぞー!
 こっちじゃぞー!黒田!」

 黒田は声が聞こえる中庭を覗いた。

 中庭には一人の男が庭石に腰をかけていた。

 だが首には西洋風のようなマフラーを巻き
 白い手袋をしていた。

 更に驚く事に上着はボタンが付いた洋服で
 ズボンを履いている。

 全体的には黒っぽい感じの洋装である。

 肩から腰にかけてベルトを掛け
 ホルダーには刀が一本、納められていた。

 だが腰には白い帯を巻き、短刀を差していた。

 後に戊辰戦争で伝習隊を率いる大鳥圭介である。

 大鳥は手に本を持ちながら黒田に話しかけた。

 「すまん、すまん、天気がいいもんだから
  外で兵学書を見とったわい」

 黒田は、またかの様な呆れた顔で大鳥を見た。

 「ああ、いや、申し訳なかです。
  しかし先生は相変わらず洋装が好きでごわすな。
  ですが、あまり目立った格好をすると
  また旗本の連中に目をつけられますぞ」
 
 「なあに、いっとるんじゃ。
  一番動きやすい格好になるのは
  理にかなってると思わんか!」

 「ですが、あまり西洋かぶれになるのも・・」

 大鳥は黒田の頭を手の平でなでながら

 「その西洋の砲術をわざわざ薩摩から
  学びに来てるのはどこのどいつじゃい」
 
 黒田は口を少しとがらせながら

 「それはそうですが・・
  あっ!そんな事より久保田藩士が江川先生を訪ねて
  参られてるのですが」
 
 「おおー!江川先生から聞いとるぞ。
  今日だったかの?待たせておるのか?」

 「はい、玄関先で先ほどから待っておられます」

 「はよ、言わんかい」

 大鳥は、えんがわにそそくさと足を掛けて
 黒田を押しのけた。

 「だから、さっきから言ってるではありませんか」

 黒田は文句のありそうな顔で走る大鳥の後をついていった。





  

  

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

4・阿部の攘夷心

「はっくしょん」

 阿部は玄関で腕をくみ大鳥が来るのを
 待っていた。

「北国も寒いが江戸の寒さはまた違うのぉ」

 すると廊下の奥から大鳥がドタバタと走ってきた。

 阿部の前まで来ると息をきらしながら

「いやー、すまんすまん、江川先生から話は
 聞いとりましたぞ。今日からこちらへ入門でしたの」

 阿部の目は点になっていた。
 大鳥の服装に驚いていたのだ。

「ん、ああ、これか。これはアメリカの軍服でござる。
 阿部君は見るのは始めてかの?」

 阿部は我にかえり

「も、申し訳ござらぬ。
 奇抜な格好にてつい驚いてしまい」

 すると後ろから黒田が後を追ってきて現れた。

「なら、阿部殿は私達の弟弟子ですな、はあはあ、」

 黒田もまた息をきらしていた。

 阿部は一礼をしてから

「よ、宜しくお願いいたします。
 どうかご教授のほど宜しくお願いいたします」

 阿部は頭を上げ

「ですが、古川先生のご紹介でなんですが、
 少々がっかりいたしました
 攘夷の志は誰にも負けぬつもりでここに参ったのですが
 拙者の勘違いでした」

 すると大鳥と黒田は顔を見合わせ笑いだした。

「はははは、阿部君は攘夷の為にここへ
 勉強しに来たのか?」

 阿部の顔はむっとした。

「当たり前でござる。攘夷のためにはまず兵学を
 向上させる。そのために江川塾に来たのです。
 なのに、大鳥先生の服装はなんですか!
 そのような西洋かぶれの格好では
 この日の本は守れぬのではありませぬか!」

 すると大鳥の顔つきが変わった。















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ジャンル : 小説・文学

2・久保田藩士・阿部辰太郎の訪問

「はい、どちらさまでしょうか」

 黒田が玄関に向かう青年が立っていた。

「拙者、久保田藩士・阿部辰太郎と申します」

「はあ、出羽の方でござるか?」

 不思議な顔で黒田は青年を見つめた。

「はい、拙者、江戸就学で岡本周吉先生から学んで
 おりましたが西洋砲術もどうしても学びたくて」

 阿部の手には手紙が握られていた。

「西洋砲術をどうしても学びたいなら江川塾が
 良いと岡本先生から紹介されまして」

 阿部は黒田の手に手紙を差出した。

「是非、この紹介状を江川先生にお渡しできますか」

 黒田は阿部の眼を見つめ

「分かり申した。ですが、あいにく江川先生は
 公用で留守にしておりまして・・」

「左様でござるか・・」

 阿部は残念な顔で黒田を見ていた。

「ああっ!代わりにいらしてる講師の先生は
 おりますが、呼んでまいりましょうか?」

 阿部は少し微笑みを浮かべ

「是非、お目通りをお願い致します!」

「では、こちらで少々お待ちくださいませ」

 黒田は廊下を足早に歩き、奥の部屋へ向かった。

 途中、教壇の座敷で机に向かい本を読んでいた
 弥助は何事かのような顔で、足早の黒田を見ていた。

 部屋の襖の前に黒田は立ち、大声で扉に向かい

「大鳥先生!岡本様と言う方の紹介で
 久保田藩士の阿部と申される方が江川先生のお目通りをと
 参っておられますが」

 だが部屋からは返事が返ってこなかった。






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ジャンル : 小説・文学

1・黒田と弥助

1863年12月・江戸の町は雪こそ降ってはいないが
感じる寒さが肌に突き刺さる季節だった。

そんな江戸の路地を首巻きをして寒さに
堪えながら歩く一人の若者がいた。

薩摩(現在の鹿児島)から江戸の就学している
黒田了介である。

黒田は古びた建屋の門を潜り玄関の段に腰を
つかせ下駄を脱ぎ、並べたのち奥座敷に
向かった。

玄関には質素な看板に江川塾と書かれている。

部屋に入るなり
「おい、弥助どん、やっぱり薩摩とは違い江戸の
寒さはこたえるのぉ」

黒田は奥で机に向かい書物を読んでる若者に
声をかけた。

「当たり前じゃぁ、あほ!」

若者は黒田に向かい呆れた顔をした。

「世界地図を見ろ!江戸と薩摩では南北の尺が
これだけ違うんじゃ!」

親指と人差し指を地図にあて距離の違いを
示す若者。

彼の名は大山弥助

後に日露戦争で満州総指令として活躍する
大山巌である。

黒田は顎髭を手のこうでかきながら

「弥助どんは、相変わらず理屈で物事を
 考えるのぉ。
 まあ、それがお主の才能じゃぁっとん」

「おいのは理屈じゃなくて本当の事を
 直視してるだけじゃ」

弥助は黒田の眼を見つめながら

「だからお主も江戸に来たのだろ」

黒田も弥助の眼を見つめ

「おぉ!そうじゃ、もっと真実を、
 世界の現状を直視するためにのぉ!」

弥助も
「あぁ!そうじゃ、我らには学ぶべき事が
 山のようにあるんじゃ。
 そして、その山は必ず藩のために宝の山に
 しなくてはならんのじゃ」

黒田は弥助の両肩をもみ笑いながら

「相変わらずの生真面目じゃの、ぐははは!」

弥助は少々怒り気味に

「なんが、そんなにおかしかぁ!」

「いやあ、すまん、すまん」

黒田は少し言い過ぎた感じで謝った。


そんななか玄関から男の声が聞こえてきた。

「ごめんください、どなたかいらっしゃるべかぁ」

黒田が誰かと玄関におもむいた。




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