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7・晴れて阿部が江川塾の仲間に

「ここで学ぶのが一番ですか?」

「左様でごわす。だからこそ一小家塾の方は貴方を
 ここへ招いたのではござらぬか?」

黒田がうなずくと大鳥、大山の二人もうなずいた。

大山は阿部の方に手をさしだし

「貴殿も我々と一緒に学ぼうではござらぬか。
 あいにくここは西洋軍学の専門だが外国の真実を知るには
 もってこいの場所でごわす。
 お互い藩のみならず、この広い日の本の為につくそうではござらぬか」

すると大鳥は冗談まじりにつぶやいた。

「もっとも弥助は大砲の事しか頭にはないがの」

「大鳥先生、それはなかでごわす。
 やっとわいにも弟弟子ができて、
 いいとこを見せようと思ったのに・・・」

「おお!そりゃすまんの弥助。
 だが阿部君、せっかくなら了介の弟弟子のほうが
 いいかも知れんぞ!
 弥助は大砲以外は女の事しか教えんぞ!」

阿部はなにか緊張が途切れた感じになり
ぷっ!と口元がゆるみ笑顔になった。

大山は顔を赤くしながら

「先生、もう、からかうのは勘弁でごわす」

「ははは!冗談じゃ弥助。すまんすまん。
 おー!そうじゃ!了介、今晩は阿部君を連れて
 これで酒でも酌み交わしなさい。
 その方がなにかと打ち解けられるだろう」

大鳥は袖から財布を出し黒田に差し出した。

「よかでごわすか?」

黒田は照れた顔で財布を受け取り笑顔になった。

「額は少ないがな。はははは!
 あー、それから、わしはこれから開成所に
 抗議をしに出かけねばならぬから阿部君に塾内の
 案内をしてくれ」

「わかりもしたー!ですが先生・・・」

「ん、なんじゃ」

「その格好で町を歩くのは駄目でごわすぞ、目立ちすぎます」

そのとき大鳥はまだ黒のマンテルとズボンを
着たままだった。







テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

6・阿部の本音

「ですが・・・」

阿部は黒田らに真剣な顔で語りかけた。

「私はホントの事を知りたいと思いました。
 世間で言われている事は真実なのか・・・
 岡本先生は私に世界の真実を知りなさいと・・」

黒田ら三人が顔を見合わせた。

「岡本先生は私の考えは妄想思想だと言われました。
 現実の我が国の事実を知りなさいと・・
 藩の枠を乗り越えて行動しないとこの国は滅びると」

阿部は中庭にある雑草を見つめた。

「雑草はどこにでも根をはります。
 ですが私は久保田の田舎から江戸に来て
 いろんな事を学びましたが江戸に根をはる事を藩は許しません。
 されど本音で言えば藩のしがらみに縛られるのも嫌で故郷に根をはる事もできず、
 脱藩する勇気もなく中途半端のままこの江戸に居ました」

阿部は雑草をむしり中庭に放り投げた。

「どうせ根をはる事ができぬのなら猛勉強をして故郷に錦を飾ろうと
 一小家塾で岡本先生から学んでおりました。
 私は先生の教えを学んでるうちに外国に興味を持ちはじめ、
 もっと世界の事情を知りたいと・・・」

「それも攘夷のために世界事情を知りたいがためですか?」

大鳥は石に腰をかけ雑草を見つめながら阿部に聞いた。

「いえ、言葉では攘夷と叫んでおりますが・・・
 分からなくなってきたのです。国のためには何が正しいのか」

阿部の向かいにいた黒田も雑草をむしり手にとりながら

「英国と戦ってえわしらは悟ったでごわす。彼らには勝てぬと。
 残念ながら互角の戦などではなっかたでごわす。」

「やはりですか・・」

阿部は暗い顔になり下にうつむいた。

「ならば阿部君。外国に勝つためにはどうすべきか。
 そして世界の真実の事情をもっと知りたいのなら
 ここで学ぶのが一番ですよ」

黒田は笑みの表情で阿部を見つめた。

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5・黒田の経験

大鳥は鬼のような形相で阿部を見た。

「阿部君は外国人を刀で切ろうと考えているのかね」

阿部はムキになる口調で

「当然です。異国人はこの日の本の国を乗っ取ろうと
 しているのですから。きゃつらを打ち払うのに何の問題
 があると言うのですか!」

「確かに外国人がこの国を狙っているのは事実ですよ。
 ですが、今の我が国の技術では到底かなわないのも事実です」

大鳥は阿部に静かに語りだした。

「阿部君は、さきの薩摩のイギリスとの戦をもちろん
 御存じですよね。
 この戦では両藩とも負け戦みたいなものでした。
 なぜだとおもいます?」

阿部は口をとがらせながら

「それは戦術もさることですが、武士としての気合いも、」

「ああ、もういいです、阿部君。」

大鳥は途中で呆れた顔をしながら阿部の話を遮った

「なにがですか!拙者の話を最後まで、」

阿部はまたムキになった。

「阿部君、いいですか。
 薩摩の敗因の原因は技術と産業の差です。
 米英仏欧は我々よりも高度な大砲と鉄砲を持っています。
 無論、貴方の言う戦術も到底かないません。
 刀や槍では西洋人には勝てないのです。」

大鳥は阿部の目を見つめながら語った。

「そこにいる黒田君や大山君はそれを経験しました。
 だからここで学んでいるのです」

阿部は黒田と大山の方を見た。

 黒田と大山はこくりと、うなずいた。

「阿部殿、世間では攘夷、攘夷と騒いでますが
 敵の事を分からずに倒そうとするのは無謀です。
 私達は英艦隊との戦で実感しました。
 むしろ彼らの技術を吸収して我々がこれを追い越さねば
 この国は滅びます」

黒田もまた攘夷の無謀さを阿部に語りだした。

「貴方の言う外国の乗っ取りは本当です。
 ですが我々がそれに同等の兵力を持てば向こうも
 考えを変えます。そのためにここで皆この塾で学んでおるのです」

阿部はなにやら困惑してる表情になってきた。

「ですが私が藩から聞いた話では薩摩藩は
 かなりの深手を負いながらも互角の戦いをしたと聞きました。
 それに長州の攘夷も勝利におわったと。 ただ・・・」

「ただ、どげんしました?」

黒田は阿部に不思議そうな顔で聞いた。

4・阿部の攘夷心

「はっくしょん」

 阿部は玄関で腕をくみ大鳥が来るのを
 待っていた。

「北国も寒いが江戸の寒さはまた違うのぉ」

 すると廊下の奥から大鳥がドタバタと走ってきた。

 阿部の前まで来ると息をきらしながら

「いやー、すまんすまん、江川先生から話は
 聞いとりましたぞ。今日からこちらへ入門でしたの」

 阿部の目は点になっていた。
 大鳥の服装に驚いていたのだ。

「ん、ああ、これか。これはアメリカの軍服でござる。
 阿部君は見るのは始めてかの?」

 阿部は我にかえり

「も、申し訳ござらぬ。
 奇抜な格好にてつい驚いてしまい」

 すると後ろから黒田が後を追ってきて現れた。

「なら、阿部殿は私達の弟弟子ですな、はあはあ、」

 黒田もまた息をきらしていた。

 阿部は一礼をしてから

「よ、宜しくお願いいたします。
 どうかご教授のほど宜しくお願いいたします」

 阿部は頭を上げ

「ですが、古川先生のご紹介でなんですが、
 少々がっかりいたしました
 攘夷の志は誰にも負けぬつもりでここに参ったのですが
 拙者の勘違いでした」

 すると大鳥と黒田は顔を見合わせ笑いだした。

「はははは、阿部君は攘夷の為にここへ
 勉強しに来たのか?」

 阿部の顔はむっとした。

「当たり前でござる。攘夷のためにはまず兵学を
 向上させる。そのために江川塾に来たのです。
 なのに、大鳥先生の服装はなんですか!
 そのような西洋かぶれの格好では
 この日の本は守れぬのではありませぬか!」

 すると大鳥の顔つきが変わった。















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